nevertheless

美しさと賢さとノスタルジーの回顧録

マシューボーンの白鳥の湖は純文学かもしれない

日照不足により野菜の高騰化が進む中、私の「美しさ」基準の高騰化が起きたことについて語らせてくれ。(7月の長い雨季に書いた冒頭を許してほしい)

 

去る7月17日、Bunkamuraオーチャードホールにてマシューボーンの白鳥の湖を鑑賞した。

ミュージカルや舞台、オペラ鑑賞に馴染みはあったものの1度も生で鑑賞したことのなかったバレエを今回初めて鑑賞した。

 

バレエに詳しい知人にどうせ見るなら目玉キャストで見るべき!とゴリ押しされおさえたマシューボール回。

監督と一文字違いというなんとも紛らわしい名前ではあるがマシューボールは世界三大バレエ団のひとつである英国ロイヤルバレエ団、現プリンシパルの超一流バレエダンサー。バレエに造詣のない私ですら一目でわかる程のオーラと気品溢れる出で立ちだった。

バレエダンサーとして生きる定めをもち人間界に産み落とされたかのような恵まれた手足の長さ、それらを増長させる肩幅に小さなお顔。カリスマ性溢れる容姿に遜色しない表現力に鳥肌が止まらず本物を見たと実感した。

 

今回の公演では演出・振付家マシューボーンの特徴である演劇性の高さが初心者の私にエンターテイメントとして楽しめる「はじめてのバレエ鑑賞」となった。

男性のスワンってどうなんだろう。優雅で可憐な白鳥からは遠ざかりそう。と思った先入観でいた鑑賞前の自分が恥ずかしいほど本物は美しい。たまらなく美しかった。


クラシックバレエとは違う、エンタメ性の高いミュージカル要素が織り込まれた演出とダンス、女性が演じるものとされていた常識破りの男性が演じるスワン。公演を娯楽として楽しむことは勿論だが見るものを虜にする芸術的なバレエダンサー。この美しさを例えるなら「純文学」に近いかもしれない。大衆に長く愛された古典バレエの枠組みを超えた斬新な演出から確かに新しい芸術が生まれていたのだ。


三者三様あるが男性の演じるスワンは、昔何処かで聞いた白鳥は本来優雅なだけでなく、人を殺してしまう程凶暴で荒々しい1面を持つ。という一言を彷彿とさせる気迫や逞しさを感じた。優雅さは無論そうである。無駄のない筋肉で力強いステップを踏み、美しく滑らかに表現するのだから。

 

クラシックが愛されていたバレエ界に新しい解釈を生み出したマシューボーン、見るものすべてを虜にする気品溢れるバレエダンサー マシューボール、常識を覆し、本来の姿を見せた男性の演じるスワン…

とんでもない本物に出会ってしまった、夏。